2024.10.9
【対談】私たちはどうやって自分の好きな職業にたどりついたのか
大阪電子専門学校(OEC)は校訓に「人技両立」を掲げ、技術力を身に着けるだけでなく、正しい倫理観をもち、豊かな発想力やオリジナルな想像力を兼ね備えた未来のエンジニア/クリエイターの育成を目指しています。
そこで、今回の記事では、OECの顧問として学習・運営をサポートしていただいている、AI研究者の河原吉伸先生(大阪大学大学院情報科学研究科 教授)と、小説家・理系ライターの寒竹泉美先生に対談をしていただき、おふたりがどうやって自分の道を切り開いてきたのかを語っていただきました。
ぜひ、みなさまのこれからの進路や生き方の参考にしてみてくださいね。
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河原吉伸 先生(以下敬称略) 寒竹先生はいつから小説家になりたいと思っていたのですか?
寒竹泉美 先生(以下敬称略)子どものときから本を読むのが好きで、真似をして自分も書くようになりました。10歳の頃には小説らしきものをノートに書いて友達に見せていましたが、中学1年生のときに「そんなに書くのが好きなら小説家になったら?」と人から言われて、そうか、そういう職業があったかと気づいたのです。そこからはずっと、「将来は小説家になる」と言い続けて、29歳でようやくデビューできました。
河原 中学生の時からの夢をかなえたなんて、すごいですね。
寒竹 河原先生は子どもの頃から研究者になりたかったのですか?
河原 いえ、全然(笑)高校生になっても、将来のことは、正直言ってあまり考えていませんでした。物理が好きだったので理系に進んだのですが、大学で研究をしているうちに研究の面白さに目覚めました。就職活動もほったらかしで研究に夢中になっていたので、気がつけば研究者になっていたという感じです(笑)
寒竹 大学で夢中になれることに出会えたんですね。子どものときはなかなか「研究が面白いな」と思えるような出来事には出会わないですからね。夢の種類によって、いつ出会うかは変わってくるのかもしれません。社会に出てから出会う人もいるかもしれませんよね。
河原 特に僕の場合は、子どものころはAI研究がまだ発展していませんでした。大学院に進学した頃くらいからAIの研究が進んできて、新しい可能性が次々と見えてきました。そんなタイミングで研究をしていたことも、夢中になった理由のひとつかもしれません。
河原 寒竹先生は、小説家のほかに理系ライターとして研究者や企業の取材をされていますよね。大学も理系です。なぜ、小説家になりたかったのに、理系の進路に進んだのでしょうか?
寒竹 好きな科目が国語と理科で、苦手な科目が社会と数学だったので、理系でも文系でもどちらを選んでもよかったのです。でも、理系の小説家の方がめずらしくて目立つかなと思って、理系に進みました。結果的に、理系のこともわかって小説のような文章も書ける、めずらしい人になれたので、理系ライターとしては重宝されています(笑)
河原 高校生の時の直感が、将来の役に立ったのですね。
寒竹 はい。高校生のときはベストセラー作家になる気満々で、もし小説家になれなかったら…とか、なれても売れなかったら…なんて全然考えていませんでした。でも、そのときの選択のおかげで、今は活動の場が広がっています。
寒竹 河原先生の専門であるAIは、数学の力が必要ですよね。河原先生は数学が昔から得意だったんですか?
河原 はい、もちろん得意でした…と答えられたらよかったのですが、そこまで得意ではありませんでした(笑)。好きではあったのですが、点数はそれほど高くなかったのです。数学の才能はそこまでなかったと思います。
小学生のときは、歴史が好きで歴史小説ばかり読んでいましたが、中学や高校のときは、ブルーバックスや科学雑誌「ニュートン」をよく読んでいましたね。物理全般が好きで、特に理論物理に惹かれていました。
寒竹 理論物理というのは実際に実験をするのではなく、仮説を立てて計算をして理論的に現象を説明したり予測したりする分野ですよね。アインシュタインの相対性理論などが有名ですね。わたしは全然惹かれなかった分野です(笑)
河原 他にも映画「スターウォーズ」シリーズを見るのも好きでした。だからというわけではないのですが、大学の専攻は航空宇宙工学です。
寒竹 先生の今の専門のAIとは全然違う分野のような…
河原 そう思いますよね(笑)でも、ちゃんとつながっています。実は、宇宙工学という分野の中でもAIの開発が必要だったのです。宇宙にロケットや人工衛星を飛ばしたときに、遠く離れた場所にあるそれらを操作したり、そこからデータを受け取ったりする必要がありますよね。そういったことを行うためにAIを開発する必要があったのです。
現在は宇宙とは異なる分野のAIを研究していますが、宇宙工学という最先端の技術が必要な分野に身をおいたことで、研究の面白さに気づかせてもらったのかもしれません。
寒竹 これから進路を考える人に何か伝えたいことはありますか?
河原 将来のことなんて分からないことが多いですよね。自分がどうなるかだけでなく、世の中がどう変わっていくかもわからない。その中で自分の進路を考えるのは大変だと思います。そんな時代を生き抜くために重要なのは、好奇心をもつことかなと思います。僕も好奇心に突き動かされてここに来ています。計算でここまできたわけではありません。その方がうまくいくかどうかは分かりませんが、少なくとも自分が「好き」と思える場所に近づくことはできるのではないでしょうか。
寒竹 確かに、好奇心は重要ですね。わたしが「理系の小説家の方がめずらしい」と思って理系に進んだのも、ある意味、好奇心からです。好奇心がなければ、めずらしいから嫌だ、文系に進もうと思ったかもしれません。
河原 好きなことに出会うためにも好奇心が必要です。ちょっとやってみようと思って試してみたり、出かけてみたりしないと、そもそも自分の「好き」が見つからない。まだ自分が何を好きなのかが分からない人は、ぜひ好奇心を働かせて、ちょっとでも興味をもったものを試してみてほしいなと思います。
寒竹 逆に、好きなことが決まっていて、将来それを活かした仕事につけるかどうか不安になって進路に迷っている人は、わたしのように、自分の直感で選択肢を選んでみてもいいかもしれません。目標までまっすぐ最短距離で行くことが必ずしもいいわけではありません。どんな経験をしても将来自分の糧になると思います。今できることを楽しみながら、せいいっぱいいろいろな挑戦をしてみてほしいですね。
人×AI×ロボット